TAKST の雑念所

週2は何かを書くということを目的に、思いついたことを何か書きます。

秘伝のたれの民主化

3日目。継続こそ力なり。多少、短くなっても良いから書こうと思う。

 

早々に白状しておくと、僕の趣味は料理とテニスである。随分とときが経ったが、就活の際にもそう書いていたと記憶しているし、今でも何らかの自己紹介の機会があれば、そのように言っている。今日、書こうと思いついたのはこの2つの趣味のどちらにも関係することだ。

 

昨日の夜、タルトタタンを焼いた。そんなスイーツがあることは数年前まで知らなかったし、何かの機会で店で食べたとして、それを自分で焼こうと思い至りもしなかっただろうと思う。美味しいけど、見た目からして面倒くさそうに見える。が、このスイーツを知った数年前、そのきっかけは何故かサジェストされてきた YouTube の作り方動画だった。そして、それは面倒くさそうな見た目に反して、作り方はシンプルで簡単そうに見えた。そこで作ってみたところ、家族からの反響は高く、定期的に焼くことになった、という経緯がある。

 

ネットが復旧し、SNS、ここでは TikTokFacebook といった特定 SNS に閉じず、YouTube や個人ブログも含めた、広い意味意味合いでの Social Network と言及した方がよいか、このネットを介した社会的なつながりがもたらしたものは多い。その中でもタルトタタンの焼き方のようなものが、以前であれば、1) どこかで見る・食べるなどしてタルトタタンを知る、2) タルトタタンを自分で作ろうと思い立つ、3) レシピや詳細な作り方が含まれる書籍等を探しだし、入手する、4) 基本は文章、限られた画像から作り方を再現し複数回試行する、4') 場合によっては友人や親戚等のおいしく焼くコツを知っている人から教わる、5) おいしいタルトタタンが焼ける、というプロセスを経なければならず、"おいしいタルトタタンを焼ける人" を生産することは多くの困難を伴い、その数が簡単に増えることはなかっただろうと思う。だが、今は違う。ちょっと料理やお菓子作りに興味がありそうな振る舞いをしているユーザーに、関連動画としてサジェストされ、それを流し見した人が、簡単に作ってみる状態に至れるわけだ。これは、"秘伝のたれ" と俗に呼ばれる、コツが広く民主化された、ないしは民主化されやすい状態になった、ということではないだろうか?

 

同じことをもう一つの趣味であるテニスでも頻繁に感じている。というのも、僕がテニスを始めたころはうまくなるための情報源は近場の上級者か、毎月、発刊されているテニス雑誌の連続写真が主体で、トッププロの試合もごく一部のものしか放送されていなかったし、試合全体を捉えるための画角で撮影されたそれは、細かなテクニックを学習するには酷く不向きだった。極めて限られた機会としては、プロの大会をリアルに観戦に行き、試合そのものではなく、外部コートで行われているプロ同士の練習を横から見て観察する、というものもあったが、文字通り、極めて極めて限られたチャンスだった。

 

それが今ではどうだろうか。YouTube を見れば、自分が推しているプロや、テクニックを盗みたいを思ったプロの練習風景の動画が 4K 解像度で無数にアップロードされているし、トッププロの世代間でのテクニックの変化や改善を、これまたトップのコーチや育成者が解説している動画が、言語を問わず大量にアップロードされている。これはつまり、インターネットに接続できて、意欲さえあれば、以前では絶対に到達できなかった無数の "秘伝のたれ" が無償で大量に取得できる状態になっているということだ。

 

SNS による分断や、エコーチェンバー効果、プライバシーへの影響等、ネガティブなことが多数ピックアップされがちな昨今だが、ポジティブな面にもしっかり目を向けて、それはそれで評価をすべきなんだろうと思う。